「恋の話がしたい」 ヤマシタトモコ
恋の話がしたい (MARBLE COMICS) 著者:ヤマシタトモコ |
言うつもりのなかった「好き」
受け入れられると思わなかった「自分」
考えもしなかった「関係」
好きな相手と付き合うのが、こんなにも怖くて幸せなんて知らなかった—。戸惑いながらもひたむきな恋愛を描いたシリーズ連作に短編2本と書き下ろしを収録。
「恋の話がしたい」
ゲイの美成は長年片想いしていた友人の真川に告白してしまいます。
恋が実るということを全く考えていなかった美成ですが、予想外にも真川は美成を受け入れます。
ですが美成はそもそも自分が誰かと付き合うなんて考えたこともなくて、告白はただ恋を終わらせるためだけのものでした。
これまで恋愛をしたことがなかった美成はどうすればいいのか分からないながらも、ノンケの真川と少しずつ初めての恋愛をしていきます。
何ていうんでしょうか、じんわりよかった。
大きな事件は何も起こりません。
美成のセフレの邑崎が二人の間に波風を立てるのかと思いきや、そういうこともほとんどなし。
ただ二人の何気ない日常や会話が描かれ、その中で平和な恋が進んでいきます。
それがとても心地いい。
美成が戸惑いためらいながらも、一歩一歩確かめるように、だけど時々小さな冒険をしてみたりしながら、ちょっとずつ初めての恋愛をしていくのが何とも微笑ましいです。
恋をしてからの、日常の中の小さな変化、新しく覚えたりすること、そういうものも丁寧に描写されています。
携帯メールの絵文字、会う前の感情の高ぶりとか、煙草の匂いなど。
年は関係ないかもしれないけど、でも30を越えた美成がこういう恋愛をしてるのは、やっぱり可愛らしい。
まっすぐでちょっと子供っぽいところもある真川はもちろん、美成も可愛いですよね。
真顔で可愛いこと言っちゃう案外素直なところとか、いつもの無表情が崩れてしまうところとか。
ヒゲで強面だけど。
私としてはヒゲで強面だからなんですが。強面受最高!
いやー毎回思うけど、ヤマシタさんとは受攻が合う!
最終話、差し込まれるモノローグと初めて会ったときの回想に、無性に泣きたくなりました。
美成の表情がたまらなくいいです。すごく恋って感じがする。
いいね!恋っていいね!
そういうことが、ごく自然に思えるお話でした。
やっぱりヤマシタさんのモノローグは素敵だと思います。
飾り気のないふつうの言葉なのに、何でこんなに胸に響くんだろう。
そういえば今回は手の描写も印象的でした。
特に手と手が触れ合うところ。
手フェチじゃないけどどきどきするほどの色気がありました。
手のほうがある意味表情豊かだったと思います。
顔には出さない、出せない気持ちの揺れがもろに表われてる気がします。
こういうところに目を凝らしてみても面白いシリーズでした。
「Re:hello」
おじさんの長い片想いと未練が、姪の女の子が盗み見たおじさんの携帯メールや習慣から描かれています。
本当に気が遠くなるような片想い。
携帯に溜め込まれた下書きメールに、あまりにも重たく切ない想いが積もっていて泣きそうになりました。
本編でもそう思ったのに、あとがき読んだら、またとんでもない設定が…!
私てっきりおじさんのことを捨てて結婚したひどい男なんだとばかり思ってたけど、こうなるとおじさんちょっときもちわるいぞ!
執念じみているとも言えます。
でも愛された記憶もなしに、しかも全然会わなくなった相手に4年も片想いって、何だか悲しくなりました。
これから何かが動くんだろうか。
ところでヤマシタさんの作品には、女の子が出てくることが多いですよね。
みんな聡くてどこか達観してるようだけど、冷めているわけではない感じ。
BLにおける男二人の関係の前では、女の子はある種蚊帳の外に置かれることも多いけど、素直になれなかったり、すでに割り切ってしまっていたりする男たちを見守ったり、代わりに感情を動かしたりする、ヤマシタさんの作品の女の子は魅力的だと思います。
この女の子たちみんな、Babyに収録されていた「魔法使いの弟子」で出てくる「お母さんの魔法」を持っているのかなあと今回何となく思いました。
「フェブラリー・メッセンジャー」
好き合っていて、しかもお互いそれを感じ取っているのに、後一歩踏み出せない二人が、真面目に変な行動を取ってしまうという笑えて可愛いコメディ。
気持ちは真剣なんだろうけど、どうしてそんな行動に表われちゃうんだ…!
意味の分からない小芝居や押し問答が微笑ましくて可愛いです。
にやにや。
全部言ってしまうことへのためらいなんですよね。
これくらいの関係大好きです。
緊張感にえろすを感じます。
でもやっぱり、誰か一押ししてあげてほしい!
あっ、この一押しが「アニバーサリー」なのか。
二人の設定は社会人のようですが、この甘酸っぱさは学生みたいでした。
自転車二人乗りもそんな感じで、すっごくよかった!
「スパンク・スワンク!」
さわやかでシュッとしたリーマンが清潔な白いシャツの下に乳首ピアスを隠しているという、何て設定だ…!
度肝を抜かれた後にかなり笑いました。
お相手となるのは取引相手のいたってノーマルなゲイの元田。
普通に考えたら異色の二人でしょうが、でも描かれているのは純粋でごく普通の恋の形だと思います。言いすぎかな。
でも、好きな人のことは理解したい、分からないことでも歩み寄りたいっていう、自然な気持ちだと思います。
そんなふうに恋をしている、まっすぐな元田が、よろった末友の心の壁を叩きます。
壁を取り払うのは至難の業でしょうが、元田には頑張ってほしいです。
元田、ぐちゃぐちゃに泣きながらの熱烈な告白?が可愛かった~。
真面目なやりとりの内容にSM専門用語が入っちゃって妙なことになってるのも面白かったです。
こういうノリも好き。
「昔の話はしたくない。」「間取りの話がしたい」「Re:hello」
かきおろし。「恋の話がしたい」の邑崎の漫画9ページと、後ろの二つは1ページ漫画。
邑崎のお話が特にすごくよかったです。
邑崎好きだなあ。
素直になれなくて、まぜっかえしちゃうようなところが特に。
美成の邑崎への扱いはちょっとひどいですよね…友達だからだろうけど。
邑崎切ないな。
もっと正直にストレートになったらよかったのに。
あと、あとがきにあったように、何も知らなかった美成に邑崎が一からいろいろ教え込んだというのは何かこうたぎるものがありました。
えっろ!
どんな感じだったのかすごく知りたいです。
収録作品はけっこうバラエティ豊かですが、全部まとめてヤマシタさんらしい作品集だったと思います。
こちらもお気に入りの一冊になりました。
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